今回の作品は、空間というものを最小限の行為で豊かにさせています。金属板にいれたスリットの脇のワイヤーが吊るされる場所をほんのちょっとずらしていくだけで無限の傾きと空間ができ、そこに宿る光もさまざまに表情を変えていく。ウインドーがあたかも光を生み出す装置のようになっていき、物質は宙に浮き、軽やかな魅力になっています。吊るすという展示自体は重力をつかいながらも、そこから逃れて自由になっていることが面白い。是非、さらに大きな空間での展示も今後見てみたいと思うアーティストです。
Lucio Fontana(1899-1968)のスリットはキャンバスとフレームのテンションから生まれ、四方謙一のスリットは重力から生まれる。1Gの元、吊るされる事で自重により現れてくる美しい歪みは上品な色気をも伴う。一枚一枚が群となる事で光は光と交錯し、生み出される影は刻々と様相を変えていく。我々は作品を体感する事で、作家の手のみが知り得ている“物質の潜在的な魅力”を知る事ができる。また、作品もさることながら、裏方である天井部の吊元も丁寧に工作されており、絵画と額、彫刻とペデスタル(台座)の様な関係は、空間に於いて重要なエレメントとなり、全てのディテールが相乗効果によってこの場の力を存分に引き出している。 私は近い将来、巨大な空間でこの無数の作品群が光を撒き散らし、ゆっくりと乱舞する光景を見てみたい。
この作品を初めて見たとき、展示スペース全体が万華鏡のように、光の領域が屋外まで広がり、作品と空間全体に一体感を感じた。謎を解くように、パーツ一つ一つを考察すると、ステンレスの表面がヴァイブレーション仕上げで光の反射を適度に抑えており、スリットの周辺は丁寧に鏡面状に磨かれて反射を強調している。中央のスリットは複数のパターンで隆起していることで、平面的な三次元のテクスチャーと、立体的な表現の組み合わせが、この複雑な反射を生み出し、金属という物質に関わらず、光と造形によって重力を無視した空間が表現されているのだと気が付いた。
止められた空間と、慌ただしく映り込む世界とのギャップが、作品が交錯する日常を取り込むことで、時間軸の歪みの面白さを見るものに与えている。