Brillia Art
彫刻家/高須 英輔

桜の古木を使ったモニュメント

Brillia City 千里津雲台

従前の団地のシンボルとして、50年の長きにわたり、人々を見つめ、愉しませてきた桜の木。この土地の記憶と地権者の想いを受け継ぐべく、思い出が宿る桜の古木を活かしてアート作品を制作し、マンションに展示しました。エントランスを飾る球体のモニュメントには、ここで暮らす人々の人生や暮らしが「輪」となり、そして「和」となるようにとの願いが込められています。

開発担当者インタビュー

この地のシンボルだった桜の木を、
人々の想いとともに
現代アートとして蘇らせる。

マンション共用部に桜の木のアートを
設置することになった経緯は

東京建物株式会社 
ビル事業企画部
課長代理 木下 格
※当時:関西住宅事業部所属
行き交う人々を楽しませ、
この地の象徴として愛された桜の古木

いちばんの理由は、建て替え事業であったことが挙げられます。従前の建物は1966年竣工の団地で、築50年が経過し、設備や耐震性、資産価値などの面から見て、建て替えが必要でした。少なくない数の地権者の方々はそうした考えをお持ちで、だからこそ我々に声をかけていただいたわけですが、その一方で建て替えに反対の方や、まだ態度を決めかねている方もおられました。多くの地権者の方が建て替えに賛成で、法的に必要な4/5の賛成は達成できる目処がたったのですが、さらに一人でも多くの方が前向きに建て替え事業にご参画いただけることを目指したいと考えました。

賛成反対を問わずいろいろな地権者の方にお話をお聞きしたところ、桜にまつわる思い出話がよく出てくることに気づきました。団地には50年前の竣工時に植えられた桜の木があり、共に人生を歩んでこられた方が少なからずおられるんですね。そこで、みなさまの思い入れの深い桜をなんとか残すことはできないか、と考えました。ソメイヨシノの寿命は一般的に50〜70年ですから、植え替えることは困難です。であるならば、別の形で残す方法はないだろうかと考えたのが、この桜の木でアート作品をつくることでした。

建て替えについては、諸事情により途中で抜けられた方もおられましたが、建替組合設立時点では96戸すべての地権者のみなさまに組合参加いただくことができました。思い出の地をなんとかしたい、なかでもシンボル的な存在である桜の木を「なんとかします」といえたことが、みなさまにご納得いただけた一助となったのでは、と思っています。

どのようにアーティストを選定し、
どのように作品制作を依頼したのか

マンション共用部のデザインをお願いしていた『橋本夕紀夫デザインスタジオ』に、桜の木をアート作品にしたいという話を持っていったときに、彫刻家の高須英輔先生をご紹介いただきました。高須先生は、旧建築や古材を活用し、そこに暮らしていた方の想いをアートとして再生するアーティストであるとお聞きし、まさに今回のコンセプトにぴったりであり、ぜひお願いしたいと思いました。

高須先生には7月の暑い日に現地まで足を運んでいただき、団地の空き部屋でプロジェクトの内容をご説明しました。高須先生は部屋のなかを興味深そうに歩き回り、柱や階段の手すりに刻まれた傷を見て、「味がある。こういう傷のひとつひとつが住民の方の生活を忍ばせる」とおっしゃいました。先生の感性の高さと旧建築についての造詣の深さに触れ、あらためて「この先生にお願いしたい」という想いを強くしました。

先生からメインのモニュメントとして、「輪」と「和」をコンセプトとした、直径1m20cmの桜の木の玉をご提案いただき、その通りに進めていただきました。

彫刻家]高須 英輔
古材や流木を利用して、
人の想いをアートへと
再生するプロジェクトを推進

アート作品をめぐって、地権者、
アーティスト、開発者のコミュニケーションは

育まれた絆を次の50年へとつなぐ、
50年間メモリアル感謝祭の風景

作品に関しては高須先生を信頼していましたので、地権者のみなさまにも「お任せください」と話しました。逆にいえば、お任せいただけるだけの信頼関係を地権者の方々と築けていたといえるかもしれません。

我々が行ったことでいえば、地権者の方々の『お別れ会』があります。建て替えに賛成したとはいえ、他所に転居する方もおられますし、新しくできるマンションに住み替える方も2〜3年は別のところで仮住まいになるので、団地の解体に着手する約1ヵ月前にお別れ会を開催しました。

高須先生にもお越しいただき、その席で作品の構想を話してもらいました。その上で、地権者のみなさまに、敷地内に点在する5本の桜の木からアート作品に使用する木を選んでもらいました。11月でしたので花見の季節ではありませんが、花見ならぬ桜見を行い、どの木を使いたいかを投票してもらい、素材にする1本を決めました。

また、あらかじめ地権者のみなさまから過去50年の団地での暮らしの写真をお借りし、それを我々でスライドムービーに仕立てて、お別れ会で上映しました。桜の写真も含め、懐かしい写真に思わず涙ぐむ方もおられました。上映後には地権者のおばあさまが高須先生とわたしのもとに歩み寄り、涙を流しながら「感動しました。この団地と新しい建物と桜の木のことをよろしくお願いしますね」とおっしゃってくださったことが深く印象に残っています。

桜のモニュメント以外にも、
多数の木のアート作品が展示されているが、
空間づくりのポイントは

本物件は千里ニュータウンのなかに位置し、駅から向かうと、緑豊かで広大な千里南公園を抜けたところにあり、マンションの前も緑化された並木道になっているなど、緑が連続しています。こうした環境を考えたとき、「木」を使ったアート作品が相応しいのではないか。作品ひとつひとつの表情は異なるものの、「木」を大事に活かしたアート作品を数多く展示しようというコンセプトで進めることになりました。

桜の古木を使った作品のほかに、廃材を利用した作品もありますが、当初の予定にはなかったものもあります。たとえば、階段の手すりの廃材を使ったオブジェは、高須先生が現地を訪れた際に見かけて、発案された作品です。

これらアート作品の配置を含めた空間づくりについては、高須先生、インテリアデザイナーの橋本夕紀夫先生、設計を担当いただいたIAO竹田設計のみなさんなど、各プロフェッショナルの方々にまとめていただきました。とても素晴らしい仕上がりで、みなさんに感謝しています。

住まいにアートがある価値とは。
そこでもたらされるもの、育まれるものは

高須先生の言葉もお借りしての回答になるのですが・・・

マンションはいろいろな人が住まい、訪れる場所であり、マンションをつくる側としては、いろいろな方々が幸せであってほしい、楽しい毎日を送ってほしいと思っています。もともとあった桜の木は、過去50年の風景のなかで、多くの住民の方々を楽しませてきました。そんな大切な役割を担ってきた桜の木を再開発のために倒してしまうのは忍びないですし、寂しいことです。残念ながら木の寿命などもあり、植え替えは叶いませんでしたが、アートとしてもう一度役立てたい。そういう想いがありました。

今回のアートは、歴史や記憶が姿を変えたものです。作品をパッと見て「なんだ、これは?」と思うかもしれません。しかし、その背景を紐解くと、50年もの長きにわたる歴史のストーリーがあらわれる。昔からこの地にお住まいの方は、アートを見て、思い出が蘇り、「また頑張ろう」と思ってもらえる。新たにお住まいの方は、「こんなアートがあるんだ。面白いね」と思ってくださる方もおられるでしょうし、ここで生まれ育つ子どもたちにとっては、このアートのある景色が原風景になるでしょう。

メインエントランスにある、桜の古木を使った球のモニュメントは、マンションの中心、要です。これまで住まれていた方と、これから住まれる方をアートが「輪」として結び、新たな風景をつくっていく。かつての桜の木がそうだったように、このモニュメントがマンションに住まう人々の「和」をなす新しいシンボルになってくれることを願っています。

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