Brillia Art
建築家/東 環境・建築研究所 東 利恵
造園担当者/植彌加藤造園 加藤 友規・渡辺 伸也

エントランスラウンジ「隠れ庭」

Brillia Tower 浜離宮

旧芝離宮恩賜庭園と浜離宮恩賜庭園に寄り添う地にたたずむ〈Brillia Tower 浜離宮〉。エントランスラウンジの中央には自然石を主役に据えた「隠れ庭」がしつらえられ、それは水の流れのように、枯山水の意匠が施された北西側ガーデン(公開空地)へとつながります。庭と一体となった迎賓空間を手がけた建築家・東 利恵氏と植彌加藤造園の加藤氏・渡辺氏に、そこに込めた思いや、庭が暮らしにもたらすものなどについてお聞きしました。

建築家&造園担当者 対談

趣ある石の表情を
取り込んだ空間が生む、
都心の喧騒から切り離された、
静謐なる憩いの場

場所の持つ面白さを読み取り、
庭や建築として再構築

東 利恵
1982年、日本女子大学家政学部住居科卒業。1984年、東京大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程終了。1986年、コーネル大学建築学科大学院修了後、東 環境・建築研究所代表取締役を務め、現在に至る。「星のや」をはじめとする宿泊施設や住宅設計などを手がける。

本物件はエントランスラウンジと庭とのつながりが特徴的ですが、そのような空間構成が生まれた経緯を教えてください。

 最初に建設予定地に伺って、高さ30mくらいある元の建物から外を眺めてみたんです。高速道路の流れがすごくきれいで、普段なかなか目にすることのできない都市の風景が見える場所だなと。そこから「景色を取り込む」ことを考え、それが庭につながりました。外にある庭とは別に建物内に石の庭をつくりたいなと思い、京都の植彌加藤造園さんにお願いすることに。以前からご一緒していて、石の取り扱いがオブジェ的ではなく、石を見立てて「庭」をつくっていただけると期待しました。

加藤・渡辺 ありがとうございます。

加藤 江戸時代には海辺だったこの地に、内から外へ二つの庭をつないで波を感じられるよう、現代の新しい枯山水にチャレンジしたのがこの空間です。中央の大きな舟石は京都の名石・鞍馬石。その後ろの景石は緑泥片岩。通称・青石と呼ばれるもので、こちらは山に見立てています。

 山をバックに舟が海を越えていく…。具象的なストーリーを抽象化して、庭としての風景を組み立てていくのが、普段私たちがしているアプローチとは違って新鮮でしたね。

加藤 その場所が背負っている時代性や地域性みたいなものを捉えて、物語をイメージするのは我々の日頃の習慣で。京都の先達たちから受け継いでいて、平安時代に編纂されたとされる我が国最古の庭園書である『作庭記』に書かれているんです。現代風に言ったら、「国々の名所を思い巡らせて、その面白い所々を自分の考えに取り込んで、その場所にふさわしいものを作り上げていく」と。

 その場所にある面白さを読み取って、それを発展させていくという意味では、加藤さんたちのつくられる庭もその要素の一つ。それが風景として見えてきた時に、この空間をどうしていくか改めて考えました。エントランスから入ってきた人の視線を庭に集中させるため、障子をモチーフにした開口部のコントロールで空間の重心を低くしました。

加藤 東先生の構想を伺った際に、雪見障子で上をあえて遮って庭を眺める大徳寺の孤篷庵(こほうあん)のようだなと。伝統的な空間構成をこのスケールで再現できるのは面白いなと思いました。

植彌加藤造園株式会社
加藤 友規(代表取締役社長)・渡辺 伸也(計画設計部)
1848年(嘉永元年)創業。京都の伝統的な日本庭園で培った技と心を生かし、寺院をはじめ、宿泊施設や商業施設などさまざまな庭園の作庭・育成を手がける。本物件では風除室の手水鉢、エントランスラウンジの景石部と北西側ガーデン(公開空地)の枯山水部における石の意匠と工事を担当。

場所の持つ面白さを読み取り、
庭や建築として再構築

エントランスラウンジに「隠れ庭」をしつらえた意図とは?

 家に帰ってきた時に、皆さんどこかの段階で「私の領域に入った」と感じると思うんです。ちょっと俗世界から切り離されたような静寂な空間にいったん入って、そこで気持ちを切り替えて家の方へ向かっていく。その切り替えポイントとしてデザインしています。外でアクティブに過ごして高揚している気持ちが、すーっと落ち着いていくような空間になったらいいなと。

加藤 東先生から最初に「隠れ庭」というキーワードを伺って、ここにお住まいの方だけがひっそりと味わえるというのが、すごくステキやなと思いました。

 京都の町屋には外からは見えない所にちょっとした庭があって、私にとってはそれが「隠れている」と感じられて。光と緑を感じさせる小さな庭が日本の昔の家屋、町屋にはあるんですよ。

渡辺 最初に植物や水が使えない建物内で庭をつくるというお話をいただいた時、これはどうしようかとちょっと悩みました。普段つくっているのは自然の木や水を使った庭ですので。そこをスタートに、どう収めるのがいいかなと、抽象化と具体化を行き来しながらトライさせていただきました。

 植彌加藤造園さんと組んだことで、より庭らしくなって。これが私たちだけだったり他の方と組んだりすると彫刻的になるんだろうなと。やはり加藤さんや渡辺さんの長年の経験と歴史に裏付けられた技術で、庭らしい形になったんだと思います。

石の表情や組み合わせが織りなす
独自の世界観を求めて

どのように「隠れ庭」を形にしていったのでしょうか?

渡辺 まずこの空間に合う石を探しました。ボリューム感や形の美しさ、風合いなどはもちろん、質感や色目がうまく組み合わさるかを考えて選んでいきます。この舟石に関しては、マッチするものを見つけるのになかなか苦労しまして、見つけた時は非常にうれしかったです。

 京都とその近郊の石が置いてある場所に行ったんですが、表情の違う石がたくさんあって面白かったです!

渡辺 東先生たちに候補の石をお見せして、厳しくジャッジしていただきました(笑)。

 そこから先が結構現代的で、3DだったりCADだったり、そういったものを駆使しながら再現されていましたね。

加藤 技術者たちが現地に原寸大のモックアップを作って、クレーンでつり上げながら東先生たちと調整して、最終的にこの収まりに。実はそれってとても大事なことで、肌で感じ取るといいますか…。東京建物さんにも現地にお越しいただいて、パースのスケールでは味わえない原寸大の実体験を共有してもらえたのはすごくよかったですね。

渡辺 現実的には、石が安定するのかという懸念もありました。舟石を正面から見ると逆三角形をしていまして、そのままでは不安定なんですけれども、そこは金物でしっかり固定してある。下の波模様で隠してあるんです。

加藤 図面の段階では分かっていなかった課題も、そういったいろんな現場のアイデアと創意工夫で解決していきました。

日本庭園は生きた総合芸術。
暮らしの中でふと立ち止まれる場所に

Brilliaシリーズの共有部にはアート作品が設置されることが多いですが、庭とアートとの関係をどのように捉えていますか?

 芸術の中に庭園というカテゴリーがあって、庭は中にも入れるし、外からも眺められるし、いろんな角度で経験していくものですよね。加藤さんたちのお仕事を見ていると植物のある庭っていうのは、常に手入れをされて、どんどん変わっていくものだなと。建築ができて木を植えて終わりではなく、年月をかけてつくっていくものだって。そういう意味ではここの「隠れ庭」は石なので変わらないですが、外の庭はたぶん5年くらいすると大きく変化していると思います。

加藤 基本的に「完成」という言葉が私たちの世界にはありません。東先生がおっしゃったように、我々の中で景色を育んでいるというんでしょうか。単に伸びた枝を切っているだけでは景色としての感動に至れませんので。いわゆるプロダクトとしてのアートと比較するならば、完成のない時間軸の中でその空間を育んでいる。そういった意味で日本庭園は「完成のない生きた総合芸術」という位置付けになるんじゃないかと思っています。

最後に、住まいに庭がある意義についてお聞かせください。

渡辺 暮らしの身近に庭があると心が豊かに感じていただけるかなと思います。角度を変えて見ていただくと磨かれた石がきらめいたり、景色が移ろっていくところに、心の喜びといいますか、気持ちが上がるようなことがあるんじゃないかなと。

 庭って立ち止まるきっかけ、その場所にいるきっかけになりますよね。家具が並んでいるだけのすてきな場所だと、疲れたという理由で座るかもしれないけれど、ほっとするような時間を過ごす場所にはなりにくい。庭っていうのは「目的のない時間」を過ごさせてくれる存在ではないでしょうか。

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