Brillia Art

Brillia x ART 対談「光」を考えること。
それは「翳り」を見つめること

日本人は古来より暗がりに「美」を
見出してきたと語る、文豪・谷崎潤一郎。
光があふれる現代だからこそ、
時には照明を消して過ごしてみませんか。
人間が本来持っている感覚が研ぎ澄まされ、
いつもの風景が味わい深く見えてくるかもしれません。
BAG-Brillia Art Gallery-では現在、
谷崎潤一郎の名作エッセイ『陰翳礼讃』の
世界観を現代の技術と視点で表現した、
『LIVE+LIGHT In praise of Shadows「陰翳礼讃」
現代の光技術と』を開催中。
本展覧会の企画制作を手掛けた
株式会社LIGHT & DISHIESの谷田宏江氏、
演出ディレクションを担当した遠藤豊氏に、
本展の特徴や見どころなどをお聞きしました。

最先端の技術で、
現代の『陰翳礼讃』を表現

光と翳りを体感できる、斬新な空間に

株式会社LIGHT & DISHES 代表取締役
谷田 宏江 様

―今回の展覧会を企画したきっかけを教えてください。

谷田 シチズン電子さんと共同で、太陽光に95%近づけたLEDを開発したことがきっかけでした。温かみのある光で、対象物を鮮やかに見せることができるLEDです。それを多くの人たちに体感してもらいたいと考え、今回の展覧会を企画しました。

―文豪・谷崎潤一郎の名エッセイ『陰翳礼讃』をモチーフにしています。

谷田 照明の世界は、残念ながら、建築やグラフィックなどの他のデザイン分野にくらべて、人々の関心があまり高くありません。そこで、できるだけ多くの人々に興味を持ってもらうために、日本だけでなく、海外にも読者の多い、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』をモチーフにしました。昭和初期の作品ですが、そこに書かれた光と翳りのなかに「美」を見出す感覚は普遍的で、現在でも照明に携わる人間にとってバイブル的な存在なっています。

そこで、最先端のLEDを使って、現代の『陰翳礼讃』を表現したいと考えました。とはいえ、企画だけあっても、それを具体的にどう表現するのか、どう演出するのかが重要になってくるので、多方面で活躍されているテクニカルディレクターの遠藤豊さんに演出をお願いしました。

遠藤 照明器具の展示会や、光を使ったアート作品の展覧会はこれまでもたくさんありましたが、今回は光そのものにフォーカスした展覧会ということで、斬新ですし、とても面白いと思いました。また、最新のLEDを見せていただいたときは、可能性の塊のように感じましたね。

―お二人でどのように展覧会を構築していったのでしょうか?

谷田 谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』のなかから、わたしが表現したい世界観について書かれた部分をセンテンスとして抜き出し、それを遠藤さんにお渡しして、具体的な展示に落とし込んでいただきました。

遠藤 谷田さんが抜き出した6つのセンテンスは、具体的でもあり、抽象的でもあり、感覚的でもある、とても力のある文章なので、それをそのまま受け取ってしまうと、単に説明的なものになってしまいます。それでは面白くないので、文章から受けるインスピレーションを大切にしながら、それぞれのセンテンスから考え得る光の現象、たとえば、逆光とか偏光とか反射とか、そういうものを導き出して、そこからゾーンごとの方針を決め、会場構成や什器のデザイン、展示物のつくりこみなどを進めていきました。

谷田 わたしが携わってきた照明の世界は、照明器具のデザインであったり、照明のレイアウトだったり、どちらかというと「静」の世界が中心です。一方の遠藤さんは舞台の照明演出などもやられていて、どちらかというと「動」の世界。今回は「静」と「動」で補完しあえたように感じます。

遠藤 たくさんの可能性が考えられる世界なので、自分で配線をしてみたり、闇のなかで光を灯してみたりと、ひとつひとつ自分の目で確かめていきました。

どうしようかと迷う場面もありましたが、谷田さんとキャッチボールをするなかでイメージを具体化していき、最終的には谷崎のセンテンスとそれぞれの展示がどんどん嵌まっていく感覚が得られました。

暗闇のなかを光が浮遊しているような展示空間はとても面白いのではないかと思います。

有限会社ルフトツーク代表
アートディレクター/テクニカルディレクター/プロデューサー
遠藤 豊 様

光のオン・オフをつくることで、
暮らしを豊かに

まずは自宅の照明を消してみよう

―BAGは「暮らしとアート」をコンセプトにしています。暮らしに活かせるヒントはありますか?

谷田 もちろんです。ギャラリーに訪れた方々がこの展覧会をきっかけに、光や照明に関心を持っていただき、暮らしのなかにヒントとして取り入れてもらうことをめざしました。

現代の暮らしは光にあふれています。まずは照明を消してみてください。そして、暗がりのなかで、ごはんを食べてみる。あるいは、お気に入りの花瓶などを眺めてみる。そうすることで、光があふれているときには気づかなかったモノの質感や奥行きを感じることができると思います。

遠藤 普段使っている照明の位置を少し変えたり、照明を消して豆灯だけで過ごしてみたり、今いる部屋の照明を消して隣の部屋の照明を点けるなど、ちょっとした工夫や決断で身の回りの景色ががらりと変わるかもしれません。

谷田 昼間は明るいオフィスで仕事をしているなら、家に帰ったら少し薄暗いなかで過ごしてみましょう。そうした光のオン・オフをつくることが、暮らしに深みを与え、愉しみを増やしてくれると思います。

暗闇が人間本来の
能力や感覚を呼び覚ます

同業者を羨ましがらせる展覧会を実現

―今回の展覧会の見どころや楽しみ方を教えてください。

谷田 遠藤さんのおかげで、わたしの想像をはるかに超えた、振り切った空間ができました。光の原点を現在の技術で再現したようにも思えて、感動しました。

遠藤 演出については、すべてを言い切らないように心がけました。全部言い切ってしまうと、それ以上のものにはならないので、会場を訪れた人たちの感性で拡張してもらいたいと思っています。暗い空間のなかで、モノの一部にだけ光があたっていれば、影になっている裏側は想像するしかない。暗いからこそ、人間の持っている眼の感度であるとか、想像力であるとか、そういう能力を研ぎ澄ませて、こちらが考えている以上の世界まで行ってもらえると面白いなぁと思います。

谷田 眠っている感覚を呼び起こすとか、研ぎ澄ますという体験は、現代のわたしたちにとっては必要なことかもしれませんね。

谷崎も『陰翳礼讃』のなかで、暗がりのなかに「美」や「面白さ」を見出す感性が日本人のDNAに眠っているというようなことを書いていますので、ぜひこの展覧会でそうした感覚を呼び起こしていただきたいです。

遠藤 先ほど谷田さんに「振り切った空間ができた」と言っていただきましたが、なかなかここまでできる展覧会は少ないと思います。谷田さんをはじめ、関係者のみなさんの許容や決断のおかげで、今回の展覧会が実現できたことをとても嬉しく思います。

ぜひ多くの方々に見ていただきたいですし、同業の人たちに「ここまでできるんだぞ」と羨ましがらせたいと思います(笑)。

谷田 本当にそうですね。照明に携わる人は見ないと損です(笑)。同業者はもちろん、ものづくりに携わる人にはぜひ見ていただきたいです。

そして、銀座・京橋を歩いている一般の人たちがふらりとギャラリーに入ってきて、本展からインスピレーションを感じ、「照明を変えてみようかな」などと思ってくれれば最高です。

PAGE TOP