Brillia Art

Brillia x ART 対談多摩美術大学が発信する暮らしと
アートのあり方とは

2021年10月15日にオープンし、
「暮らしとアート」をテーマに数々の展覧会を
開催してきたBAG-Brillia Art Gallery-。
1周年の節目となる今期、
多摩美術大学の学科交流プロジェクトによる
展覧会「日常の揺らぎ」を開催しています。
絵画学科版画専攻、彫刻学科、
情報デザイン学科が各科の垣根を越えて
一同に会する展示はどのように実現したのか。
展示監修を行ったアーティストで
同大学非常勤講師の開発好明氏ほか、
同大学の大島成己教授、同大学助手の和賀碧氏に、
東京建物の大久保昌之とともにお聞きしました。

当たり前の日常に
揺らぎを与えるアートの力

安定的に繰り返される窮屈な日々に
“不安定”という刺激をもたらす

アーティスト・多摩美術大学非常勤講師
開発 好明 様

―今回の展覧会は「日常の揺らぎ」がテーマとのことですが、どのような展示を企画されましたか。

開発 多摩美術大学(以下、多摩美)の情報デザイン学科、彫刻学科、絵画学科版画専攻と3科がタッグを組んで、多種多様な作品を展示する展覧会を企画しました。今回僕が全体監修を任せてもらっていますが、美大の展覧会というとどうしても学科内ごとに行うことが多い。でも僕は常々、科を超えた展覧会があってもいいのではと、思っていたので、3科の先生がたに相談し、実現しました。

大島 確かに私たちの大学は非常に規模が大きく、学科自体が専門学校のように独立しているので、科を超えた横断的なプロジェクトはほとんどなかったんですよね。だから今回のような交流プロジェクトが対外的に行われるのは、おそらく初めてなんじゃないかな。私たちにとっても画期的なチャレンジになりました。

テーマを考えるにあたっては、BAGのコンセプトが「暮らしとアート」だったので、日々の暮らし、つまり私たちの日常にフォーカスしました。そもそも暮らしとは日々繰り返される日常であり、それが変わらないことは心の安定や安心につながりますが、同時に窮屈さを感じる側面もあると思います。そして、そんな安定的に繰り返される日常に揺らぎを与え、当たり前だと思っていた日常に潜む別の側面に気づかせてくれるのがアートだと考え、「日常の揺らぎ」をテーマとしました。特にアーティストというのは、人がふだん見過ごしている問題が見過ごせず、常に問題意識を持っている人が多いので、作品を通して何かしらの気づきを感じていただけるのではないかと思います。

大久保 確かに言われてみれば、アートに触れて揺らぎというか、不安定な気持ちになることってありますよね。僕もよくアートを見たりインスタレーションを体験したりすることもありますが、正直これは何を表現しているのか、ここから何を受け取ったらいいのか分からないことがあります。分からないけれど、その不安定感、異物感が何年経っても忘れられないんですよ。

大島 分かる・分からないという感覚は、言語化されているか・されていないか、というだけのことだと思うんですよね。言葉でうまく言い表せないから理解できていないと思っているだけで、感覚的には理解している。だから何年経っても心の奥底に残っているんだと思います。

実際僕自身もこれまで数多くの作品を見てきましたが、いまだに「これはどう捉えたらいいのか」と戸惑うこともあります。その戸惑いが大きければ大きいほど、ずっと心に残るわけですが、数年後ふとしたときに「そういうことか!」とストンと落ちることもある。まさに言語化される瞬間ですね。だから難しいことは考えずに、まずはこの戸惑いも含めて作品と向き合うのがいいのではないかと思います。

和賀 今回の展覧会でも、各作家が様々なアプローチで思いを表現しています。鑑賞する際に体全体で体感していただき、みなさんの心に何か残るものがあると嬉しいですね。

多摩美術大学絵画学科版画専攻 教授
大島 成己 様

若きアーティストを
“大化け”させる舞台の必要性

1周年を迎えるBAGの
存在意義を改めて振り返る

多摩美術大学彫刻研究室 助手
和賀 碧 様

―会期中の10月15日は、BAGオープン1周年という節目に当たります。BAGの立地や存在意義について、どう思われますか。

開発 以前この場所にあったLIXILギャラリーは私たちアーティストにとっては有名な場所で、僕もかつて何度も足を運びました。その場所に新たに誕生したギャラリーで展覧会ができることになり、本当にテンションが上がっています。以前のギャラリーは2階にあったので、ちょっと敷居が高いところもありましたが、今度は1階路面のガラス張りになったので、誰でもフラッと立ち寄りやすいですね。あ、でも若い作家さんの中にはピンとこない人もいるみたいですけど(笑)。和賀さんはどう?

和賀 いえ、私もLIXILギャラリーには何度も来たことがありますし、ここで展覧会ができると聞いて嬉しかったです。今回は私も彫刻科として出展しますが、この京橋というビジネス、ファッションの街という現実のそばに一種のパラレルワールドを構築しようという試みをしました。フィクションと現実の狭間、日常の揺らぎを体感していただければと思います。

大島 BAGは立地が非常にいいので、多くの方にクオリティの高い作品を見ていただきたいと思い、出展アーティストはすでにキャリアのある多摩美の卒業生や関係者を選んでいます。同時に、こういった大きな場はキャリアの少ない学生がアーティストとして“大化け”するチャンスにもなりますので、スリリングですが、学生にも参加してもらっています。

開発 今回、展示室を2つ用意してくださったことで実現した試みですね。展示室「BAG+1」では、卒業生や学生によるグループ展、「BAG+2」では大島先生をはじめ第一線で活躍されている3名による展示と分けることで、アートが持つ多様な世界を味わっていただけるのではないかと思います。

大久保 アートに関わるみなさんに、そのように評価してもらえてうれしいですね。私たちがBAGを開業するきっかけの1つとなったのが、2018年から東京建物八重洲ビル1階の展示スペースで行っている公募展「Brillia Art Award」です。2坪ほどの小さな展示スペースですが、アーティストの方々に発表の場を提供したいという思いと同時に、建物を創造する企業として社員にも新たな気づきを感じてほしい、という思いがありました。

実際、好き嫌いは別にして多くの社員が目を留め、何かを感じてくれているようで手応えを感じています。ギャラリーの運営も企業としては初の試みで、まさに試行錯誤の連続でしたが、こうして1周年を迎え、多くの方々に足を運んでいただけたことで、改めて存在意義を感じているところです。

東京建物株式会社 執行役員
Brillia Art Gallery Executive Producer
大久保 昌之

社会課題を解決する
手段としてのアートを考える

企業と美大の連携が、街や暮らしに
新たな視点をもたらす可能性

―改めてBAGのコンセプトである「暮らしとアート」について、みなさんの考えをお聞かせいただけますでしょうか。

大島 僕は以前ドイツに住んでいたことがありますが、ドイツでは暮らしの中にアートがあるのが当たり前。年齢や貧富を問わず、どんな人の家にもアートがあり、美大の卒業制作展ともなると、作品を買いたいという人が何万人も押し寄せるんです。

一方、日本でアートというと少し意識が高いイメージがあり、まだまだ箱物で鑑賞するイメージがある人も多いのではないでしょうか。でもアートはもっと身近なもの。日常の中で取り入れるからこそ、感性に響く何かがあるはずです。アートに関わる者としては、無名のアーティストの作品でも気に入ったものがあれば気軽に買い、暮らしの中に取り入れていくようなスタイルが広がっていくといいですね。アーティストも霞を食べて生きているわけではありませんから、作品を売っていく必要があります。そのためにも、BAGのような、暮らしにおいてアートに向き合うことを促していく場が増えることは、私たちにとっても大変ありがたいことです。

開発 もちろん展覧会を行うだけでお金になるわけではなりませんが、こうした場が増えていくことで、アートの文化がじわじわと底上げされていくことが期待できますしね。実際、地方では家屋や大地を使った芸術祭のようなものも多く開催され、今まで美術館などの箱物では展示ができなかったような前衛的なアートが発表できる場も増えています。今後、このような場が都市部でも増えてくるといいなと思います。

大久保 確かに僕もアーティストの発表の場がないと聞いたことがあります。私たちディベロッパーができることとして、既存の建物を取り壊す前に期間限定でその建物に自由にアートしてもらうとか、そこでワークショップを行うとか、いろいろあるんじゃないかと思いますね。

大島 僕は1つの可能性として、企業と美大が連携して課題の解決に向かっていくことができるんじゃないかと思っているんです。大学にはこれまで積み重ねてきた知見、研究成果、学生という若い感性などが揃っています。これらを企業が向き合う課題、例えば街や場のあり方、人と人との関係性といった問題の解決に活用できるんじゃないかと思っています。

大久保 確かに私たちもかつては、建物を建てて売ったらそれで終わり、というところがありましたが、今はもっと広く暮らしに関わっていくべきという考えが広がっています。“暮らし”を提供している企業としてこれからは、美大の方々から新たな視点や気づきをいただき、よりよい日常について考えていくことも大切かもしれません。
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