Brillia Art

Brillia x ART 対談「光」を捉え、物質化する

光を物質化することで、光の特性を表現する。
そんな哲学的でユニークな
アート作品にチャレンジしたのは、
これまで多種多様な光のアートを
つくりつづけてきたアーティスト・松尾高弘氏。
BAG -Brillia Art Gallery- では
現在、松尾氏のアートワーク群と、
自身が率いるアートスタジオ“EMISSION”
によるアートプロダクトを多数展示する
『Takahiro Matsuo “Light Crystallized” 』
を開催中。
光の結晶化とは何か。
松尾氏に本展のコンセプトや
見どころなどをお聞きしました。

「Light Crystallized(光の結晶化)」
への挑戦

光を物質化し、光の特性を表現する

株式会社ルーセントデザイン 代表
Artist/Designer
松尾 高弘 様

―今回の展覧会のタイトルでもある「Light Crystallized」とはどういうものですか?

「Light Crystallized」は「光の結晶化」という意味ですが、僕自身は「物質化された光」と定義しています。 光にはいろいろなカタチがあります。太陽の光、照明の光、また、映像なども光によってディスプレイ等に表示さます。また、光は空中で見ることはできず、対象物がないと存在を感じることができません。そして、照明やディスプレイのスイッチをオフにすると、光は消えてしまいます。当たり前のことですが、光はそうしたユニークな特性を持っています。
この光の特性を作品として表現できないかと考えたときに、光そのものを“モノ=物質”に変換することができたら、新しい表現ができると思いました。それが「Light Crystallized」、光が結晶化したような作品群です。
消えてしまう光も美しいですが、物質化されてずっと輝き続ける光もまた違った価値を生むのではないかと思っています。

―「Light Crystallized」を具現化するためにどのようなことをされたのでしょうか?

光を物質化するというテーマを体現するにあたり、作品に使用するマテリアル(素材)にこだわりました。
特にクオーツガラスという希少なガラスを使ったことは大きなポイントです。クオーツガラスは光ファイバーや顕微鏡などといった高度な光学性能が求められる工業分野で使用されているガラスで、非常に純度の高い、濁りのない透明なガラスです。今回はその廃材からつくったオブジェ作品を展示しています。光をほぼ100%通す素材なので、光の物質化というテーマには最適なマテリアルでした。
もうひとつマテリアルで特徴的なのはプリズム光学樹脂です。こちらも物質的には透明ですが、光を通すと虹色の光が出たりするもので、10年以上前から向き合っている素材です。もともとは1枚のシート状のもので、そこから折り紙のように加工して作品に仕立てていくことから、高い創作性と技術が必要になります。今回はこのマテリアルを花のカタチにした「Prism Flower」という作品をつくりました。

―ギャラリーの中央にはインスタレーションも展示されています。

2020年に発表した「SPECTRA」というインスタレーション作品です。落下する水に光を透過させることで、空中で光を可視化するというものです。水は流体なので物質とはいえませんが、光の物質化という今回のコンセプトの起点となった作品です。
今回の展覧会の作品は、いずれも光が存在することで初めて作品として成立するというものになっています。複数の作品を展示していますが、これらトータルで「Light Crystallized」の世界を体現できればと考えて空間づくりを行いました。

―訪れる人たちにどのように見てもらいたいですか?

特に難しいことは考えず、明るい空間のなかで白い光に包まれながら、清々しい気持ちになっていただけたらいいですね。そして、各作品が照明の光や窓から射し込む太陽光を受けて、どのように見えるのか、そうした光の存在を感じながら楽しんでいただけたらと思います。

プリズムアートで
毎日の暮らしをより豊かに

人に寄り添う光を楽しむ

―隣接するギャラリーショップでは作品の展示販売も行っています。

ギャラリーにも展示している「Prism Flower」やジュエリーなどのプリズムアートを展示販売しています。
なかでも「Prism Flower」は一輪挿しスタイルのものを多数置いています。今回、プリズム光学樹脂でつくる作品を“花”にしたのは理由があって、花は国境もなければ性別もないニュートラルな存在でありながら、そこにあるだけで空間を華やかにしてくれる。人とアートの接点になってくれるのではないかと思いました。ギャラリーを訪れてアート作品に出合うという行為はその時間その空間だけの限定的なものですが、たとえば、「Prism Flower」を自宅やオフィスなどに飾ることで、アートが身近になり、どんどん広がっていくといいなと思っています。

―確かに自宅に「Prism Flower」があるといいですね。

一輪挿しスタイルなので、デスクや玄関先のちょっとしたスペースに飾ることができますし、太陽の光、照明の光など、それぞれの光で表情が変わるので、楽しんでいただけると思います。
また、プリズムアートのジュエリーも輝きをたたえながらも非常に軽量なので好評です。
光にはいろいろな役割があります。たとえば、生活環境を照らす機能的な光、イベントなどで場の雰囲気をつくる演出された光などです。そうした観点でいえば、身近に飾るプリズムアートの光は人に寄り添って元気や癒しなどを与える役割といえるかもしれませんね。

―暮らしのなかで、光と上手に付き合うためのヒントはありますか?

光の色を意識してみてはいかがでしょうか。自分がまとっている洋服の色は気になりますよね。でも、自分を包んでいる光の色はあまり気にしていないのではないでしょうか。自分の部屋やリビングなど、それぞれの環境に合わせて照明の色を変えてみると、暮らしの質が変わってくるかもしれません。ファッションの色を選ぶように、光の色に対する意識を高めれば、生活やライフスタイルの感度も上がり、より楽しく豊かに暮らせるようになると思います。

他人事ではなく、
自分事として観てほしい

作品をギャラリーの外に届かせたい

―そのなかで、今回の展覧会は松尾さんにとってどのようなものですか?

光をアート作品として物質化するというのは初めての試みでしたが、良い作品ができたのではないかと思っています。
光の作品の多くは電源を必要としますが、今回は光を物質化したことで電源がなくても輝きを放つ作品がほとんどです。つまり、光の作品でありながら、設置しやすい、手に取りやすい作品といえます。ですので、公共の場にクオーツガラスのオブジェ作品が設置されるとか、プリズムアートのピアスを身に付けてもらうなど、作品がギャラリーを飛び出して、どこかに届き、広がっていくことを期待しています。そして、それが本ギャラリーのテーマである「暮らしとアート」や「環境とアート」における僕なりのひとつの回答だと思っています。

―光にまつわる作品を数多くつくられていますが、松尾さんにとって光の魅力とは?

まず大前提として、光って美しいと思うのです。自然の雄大な景色を見たときに感じる美しさと同じような、根源的な美しさがあります。そして、コントロールできる部分とできない部分がある。きちんと制御できるから作品として成り立つ一方で、人知の及ばないところもある。そうした相反するものが同居している点も魅力だと思います。
これまで数多くの光の作品をつくってきましたが、光にはまだまだ知りえない特性や美しさが潜んでいます。僕の場合、ひとつの作品で完結するのではなく、創作を積み重ねていくことで、“光”に迫っていきたいと考えています。

―最後に、本展に興味を持ったみなさんにメッセージをお願いします。

アーティストの作品展という感覚ではなく、他人事じゃない、自分事として本展を楽しんでいただけるとうれしいです。たとえば、ショップでファッションを見るとき、自分に似合うかなとか、このデザインはいいなとか、自分事で見ていると思います。それと同じように観てほしいです。
ちなみに今回、ギャラリーショップのアイテムだけでなく、ギャラリーに展示中の作品も購入可能なのですが、買う買わないは別にして、「このオブジェが家にあったら面白いな」とか「この花の作品をあの人にプレゼントしたいな」とか「SPECTRAでシャワールームができないかな」とか、そんな感覚で気軽に光の世界を楽しんでいただけたらと思います。

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