Brillia Art

Brillia x ART 対談ビジネスに、そして福祉に。
アートはどんな新風を吹かせるのか

今年初めに東京・京橋
「BAG-Brillia Art Gallery-」の
オープン記念展覧会を担い、
現在は金沢21世紀美術館にて
「ROUTINE RECORDS」を展開中の、
福祉実験ユニット・ヘラルボニー
(株式会社ヘラルボニー)。
さまざまなコラボレーションを
重ねてきた同社の代表・松田崇弥氏と
東京建物の大久保昌之が
これまでの取り組みを振り返りながら、
ビジネス活動とアートの融合について語り合います。

アートの可能性を共に探る

さまざまなコラボレーションを振り返って

株式会社ヘラルボニー
代表取締役社長 CEO 松田 崇弥 様

―まず最初に、これまでのヘラルボニー×東京建物の取り組みについて教えていただけますか?

松田 私たちヘラルボニーの事業の一つに、建設現場の仮囲いを美術館にする取り組みがあり、もうすぐ累計50か所を迎えるほど大きな事業に成長しています。JR高輪ゲートウェイ駅の建設現場では、それまで期間を終えればゴミとして処分されていた仮囲いのシート(厚手のシールのようなもの)を、障害のある作家のアートで彩り、仮囲い終了後はトートバッグに生まれ変わらせる「アップサイクル」の取り組みにチャレンジしました。バッグの売上の一部が作家へ還元されるシステムです。この事業は2021年に環境大臣賞を受賞し、それを知って真っ先に声をかけてくださったのが東京建物さんでした。

―それが千葉のBrillia建設現場でのWALL ART MUSEUMへとつながったのですね。

松田 はい、東京建物さんと共に千葉でWALL ART MUSEUMを展開させていただき、BAG-Brillia Art Gallery-にて開催した「ヘラルボニー/異彩のみらい」展でアップサイクルしたバッグを紹介し予約販売しました。同展覧会中に制作したアートラッピングピアノ「Brillia Art Piano」は、会期終了後に成田空港へ貸し出し、以降、長野、ハレザ池袋、有明と色々なところを旅して作品を展開、活用しています。

―最近の取り組みとしては、金沢21世紀美術館で開催中の「ROUTINE RECORDS」もありますね。

松田 東京建物さんに協賛いただき、この秋からスタートしました。どんな展覧会かというと、知的障害のある方が日常の中で繰り返すさまざまな音を音楽に昇華させて届けるというものです。例えば、ヘラルボニーを立ち上げるきっかけになった私の兄も重度の知的障害を伴う自閉症で、昔から「さんね」「なーい」という言葉が好きで、今もよく叫ぶんです。家の中にいると10分に1回くらい聞こえてきて。知的障害のある方、自閉症のある方が行動特性として発するこうした音は、私たち家族にとっては当たり前の環境音なのですが、一歩外へ出ると奇異のものとして捉えられてしまう。でもこうした音をDJにリミックスしてもらい、かっこよくカジュアルに、美しく音楽として世の中に出していくと、聴いた後に捉え方が少し変わるのではないかと考えました。

大久保 ROUTINE RECORDS、私も先日金沢で鑑賞してきました。障害のある方が出す音や言葉は、確かにそれだけを普通に聴いたら「なんだこれは?」と思うかもしれません。ただ、それが表現としてまとめられ、違う視点で聴くと「あれ、これは面白いな」という気づきが生まれる。そういうことが、つまりはアートの効用ではないのかと思っています。

松田 そうですね、アートは言葉としても概念としても、魔法みたいなところがすごくあるなと私も思います。例えば、大きな声で同じ言葉を繰り返すことは、親御さんにとっては「やめなさい」と言い続けてきたことだったりするんです。でもアートとして昇華されると、やめさせなければならなかったことが価値転換される。そして、聴いた人が過去をリフレインさせるきっかけにもなり得る。「ああ、学校の特別支援学級で叫んでる子がいたな」とか、「近所の福祉施設にもこういう人いるな」とか。そのリフレインがすごく大切だと思っています。

東京建物株式会社 執行役員
Brillia Art Gallery Executive Producer
大久保 昌之

■「ROUTINE RECORDS」
知的障害のある人が過ごす日常で繰り返される「音」に着目し、社会へ届ける実験的な音楽レーベルです。彼らの行動習慣にまつわるさまざまな音を聴取/音源化し、鑑賞者がそれらを用いて自ら音楽を生み出す体験や、プロによるオリジナル曲の作曲を通して、普段触れることの少ない知的障害のある人とわたしたちの垣根なき日常を繋ぎます。

アートはビジネスに何を与えるか

賛意も批判もある中で取り組む意義

―松田さんは東京建物とコラボレーションすることをどのように捉えていらっしゃいますか?

松田 BAGがオープンして最初の展覧会にヘラルボニーを選んでいただけたことも含め、すごくありがたいと思っています。私も広告代理店に勤めていたので想像するのですが、企業である以上、投資した先の広告換算値がどのくらいかなど、わかりやすい数値が求められる場面が多いと思うんです。そんな中で数値化しづらい、可視化しづらいアートというものに、東京建物として投資できているのはなぜか。どのように社内を納得させ周知しているのか。すごいなという尊敬の気持ちを込めて今回ぜひお聞きしたいです。

大久保 正直言って納得させられているかといえば答えはまだわからないし、費用対効果を語るのもおっしゃる通りとても難しいです。そもそも語るものでもないのかもしれない。とはいえ、企業としてこういう活動がどのように自分たちの事業にビジネス貢献するのか?ということは常に考える必要はあると思っています。

松田 先日、Brillia有明スカイタワーに作品を提供されている現代美術家の中山ダイスケさんとお話しする機会があったのですが、中山さんも「東京建物さんは昔からアートに取り組んでいるんだよね」とおっしゃっていました。企業としてアートに着目されている理由をぜひ伺いたいです。

大久保 アートに関心を持って活動していくことの意味としては、当然企業ブランド、Brilliaブランドのイメージ向上という側面が第一義的にあります。ただ、これは公式見解ではなく私の考えですが、それ以上に重要なことというのは、アート活動に取り組むことによるインナーブランディングだと思っているんです。コミュニケーションのきっかけにもなるだろうし、その中から気づきが生まれ、心にさざ波が立つことで創造的な仕事につながっていく可能性もある。そうしたことが、東京建物の企業活動の“懐の深さ”みたいなところにつながり、サービスやプロダクトの質の向上にもつながっていくのではと考えています。

―実際に社員からの反応や、意見が届く機会もあるのですか?

大久保 数年前から本社1階でBrillia Art Awardの入選作品の展示を行っていますが、これらの作品に対して社員たちは一体何を感じているのか、そもそも感じていないのか。去年からアンケートを取り始めました。実際に声を聞いてみると、やはり社員それぞれいろんなことを感じていて、もちろん賛意だけでなく、批判もあるし苦言もある。それが重要なのだと思っています。私たちも決して「アートはいいよね」「すばらしいよね」と言うことを強要するつもりは全くなくて。良いも悪いも含めて、興味の矛先がアートに向くことで、心にビタミンのようなものが与えられ、みんなでいろんな感情をやりとりしていくうちにそれぞれの解釈が深まっていけばよい。それが仕事にもいい意味で循環していくのではないかと期待しています。

松田 すごくわかります。アートはインナーブランディングの側面もあるという点、私も本当にそう思います。アートを見て全部が全部すばらしいと思うわけではなくて、「これ意味わかんないなあ」とか、批判的に感じる作品も当然自分の中にあったりします。アートって「いいね」と言わなければならないものではなくて、自分が直感で感じたことを、感性のままに吐き出せるということに面白さがあると思うんです。社員のみなさんからさまざまな意見が上がるというのは、仕事をしていくうえでのオープン性みたいな部分にもきっと寄与していくのではないかと考え、私自身お話を聞いていてとても勉強になりました。

「新しいラグジュアリー」
におけるアート

心の豊かさが強く求められる時代に

―ヘラルボニーと東京建物のコラボレーションがどう新しい展開を見せていくのか、未来の話を最後にお願いします。

松田 新しい展開を語る前にぜひ一つ伺いたいのですが、Brilliaが掲げるコンセプトに「ニューラグジュアリー」という言葉がありますが、新しいラグジュアリーという言葉には、アートへの関わりも含めてどんな価値観、どんな解釈が委ねられているのでしょうか?

大久保 そうですね、近年Brilliaは「ニューラグジュアリーレジデンス」をスローガンのように掲げて展開してきています。ラグジュアリーというのは贅沢、豪華、高級といった意味が強いですよね。そこに「ニュー」をつけて現代的に捉えると、ただ単にものの値段が高いとか金銀きらきらしているようなことではなくて、人それぞれの心地よさであったり、心の豊かさのようなものが存在すること。それこそが贅沢ではないのか、と。そのような高次元な贅沢さのある生活を提供していきたいというのがあります。そんな中でアートというのはまさに、普段の生活の中にスパイスをもたらせるものではないかと私は思っています。

松田 なるほど。従来の現代アートは資本主義に密接に結びついていて、例えば何億円とかでオークションで落札されるようなことが、確かにラグジュアリーとしてわかりやすいものではありましたよね。私たちは、作品が売れることによって、実際に誰の手にどれだけのお金が渡り、どんなふうに世界が動いているのかという点の透明度の高さを大切にしています。自分がアートに対して払ったお金が、どんなふうに人の人生に、あるいは社会に寄与していくのか。それが明確になることが新しいラグジュアリーになっていく可能性はすごく高いのではないかと思っています。

大久保 ヘラルボニーさんが今後、東京建物と共に取り組んでみたいプランは松田さんの頭の中にすでにありますか?

松田 はい、実はすでに考えていることがあって、勝手に資料を作り始めています(笑)。例えば、これから再開発が進んでいく八重洲・京橋エリア。障害のある方が働くショップがあってギャラリーがあって…シティブランディングも含めていつか一緒に創っていけないかと思い描いています。オランダの企業にブラウニーズダウニーズという、ダウン症はじめ、障害のある方が働くカフェがあるんです。アムステルダムの一等地に何店舗も出店していて、ブラウニーズダウニーズに就職が決まれば「すごいじゃん!」と言われるような企業です。そのようなことを東京の一等地で実現するチャンスがあればぜひ一緒に挑戦させていただきたいです。

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