Brillia Art

Brillia x ART 対談「定点観測」が見せる日常の中の変容

詩人・萩原朔太郎さんの孫で、
自身も劇団「天井桟敷」や雑誌
「ビックリハウス」の立役者として
サブカルチャーの一時代を築いた萩原朔美さん。
近年は、街中のありふれたものを撮影し続ける
「定点観測」をライフワークとし、
その独特な視点が注目を集めています。
「BAG-Brillia Art Gallary-」では現在、
定点観測写真のコラージュや
「ビックリハウス」のバックナンバーのほか、
100年前に朔太郎さんが撮影した写真を
再現した写真の展覧会「萩原朔美 都市を切取り、
時を生け捕る」を開催中。
なぜ「定点観測」が生まれたのか、
定点観測への思いについて、企画監修を担当し、
自身もファンだという坂本浩章
(彫刻の森芸術文化財団)が、
萩原朔美さんにインタビューを行いました。

世界は素材にあふれている

いいと思ったものは書き留めて自分のものに

映像作家/演出家/エッセイスト
萩原 朔美 様

坂本 今回は、劇団「天井桟敷」や雑誌「ビックリハウス」など、70-80年代のサブカル文化を牽引した萩原朔美さんにお話しいただく機会を得て、当時を知っている私としても大変うれしく思っています。天井桟敷時代から今に至るまで、常に全力で活動されていますが、その力の源はどこにあるのでしょうか。

萩原 いやいや、もうラストスパートですよ。だってもう76歳ですから(笑)。だけど僕は、後ろは振り向かないようにしているんですよ。「天井桟敷」の主宰者である寺山修司の名言で、「振り向くな、振り向くな、後ろには夢はない」という言葉があるけど、僕も振り向けば75歳、前を見たらまだ0歳。つまり、まだ新しいことだってできるわけ。

僕は「いい言葉だな」と思ったら、何でもその場で書き留めるようにしているんですよ。それをシーンに合わせてアレンジしていくことで、より的確な言葉になる。何も一から作る必要はないんですよ。アルゼンチンの作家・ボルヘスは、「創造とは変容である」と言ったけれど、僕もそう思っている。だから僕はいいと思ったものはどんどん記録するようにしています。世界は素材に溢れているのに、見過ごすのはもったいない。

坂本 確かに先生は昨日も、街で見かけた言葉をパッとメモしたり、写真を撮ったりしておられましたよね。常に新しいものを取り入れようとする姿勢に勉強させられました。そういう意味で「定点観測」も、記録に近いと思いますが、先生が初めて定点観測を始めたのはいつごろでしょうか。

萩原 1970年前後ですね。テーブルに置いたリンゴを6×6カメラで1年間365日撮り続けてみたんです。その写真を16mmのムービーカメラで撮り直して7分ほどの映像にしたら、すごい変容が記録されていまして。最初はハリのあったリンゴが徐々にシワシワと縮んできて、小さくなっていく。そのまま小さくなるのかと思ったら、今度は膨らみ始めるんですよ。中が発酵してお酒になるんですね。それでまた小さくなって、ついに終わり。まるで人間の一生を見ているようでしたね。その後、山の中で霧がパーッと晴れていく瞬間を収めたムービーが海外のアーティストの目に留まって評価されたことがきっかけになり、定点観測が僕のライフワークになりました。

公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団
Brillia Art Gallery運営事務局 チーフディレクター
坂本 浩章

机上で考えても新たなものは
生まれない

まず動くことで、テーマはおのずと見えてくる

坂本 それで今でも、街に出たら必ず写真を撮られるんですね。当時はフィルムカメラを使われていたと思いますが、今は何で撮影されていますか。

萩原 あのね、僕の家の近所に、あの天才アラーキー(写真家・荒木経惟氏)が住んでいるんだけど、彼いっつも首からカメラをぶら下げて、道端で会っても写真を撮っているんですよ。僕もあんな感じでカメラを持ち歩きたいな、と思ったけど、やっぱり軽いのがいいと思って、美大の卒業生で、今はラボをやっている教え子に相談してみたんです。そうしたら、「先生、スマートフォンで十分ですよ」っていうわけ。それで、その場でスマホで撮影した写真を伸ばしてくれたんだけど、本当に十分きれいで。それ以来、何でもスマホで撮るようになり、今や定点観測のスポットも50ヶ所以上になりました(笑)。こうして続けられるのも、彼のアドバイスのおかげですね。

坂本 50ヶ所!街にはさまざまなものがありますが、そのなかから定点観測するテーマはどのように決めているんですか。

萩原 撮る時は、テーマなんて考えていませんよ。とにかく目に入ったものを撮りまくっているだけ。それで家に帰ってゆっくり見返したときに、「あれ、なんだこれ」とか「僕、これを何回も撮ってるな」と、気になるものが出てくるので、それを撮り始めるんです。先にテーマなんて考えていたら、何も進まないから、まずは動くのみ。学生でもよく「テーマがないから原稿が書けない」という人がいるんですが、そりゃペンを動かさなきゃ何も出てきません。そんなときは「まずは、自分は書けない、ということを1行書いてみなさい」と言っています。「私は3時間も座っているのにテーマが出てきません」「昨日もテーマは出てきませんでした」「私には一生テーマが出てこないんじゃないか、という気がします」とつらつら書いているうちに、「私にはテーマがないことがテーマです」って、そこからバーっと筆が進み始める。とにかく動いていれば、テーマはおのずと見つかってくるものです。

ファインダー越しに100年前の
朔太郎に出会う

同じ場所に立ち、
朔太郎さんとその時代に想いを馳せる

坂本 なるほど、アートは衝動から始まるって言いますし、カメラはもっとも今の衝動を収めたアートですからね。一方で今回の展示では、先生の祖父である萩原朔太郎さんが撮影した写真と同じ画角で、朔美さんが撮影した写真展も同時開催されています。こういった写真を撮影したきっかけはなんだったのでしょうか。

萩原 確か企画展だったと思いますが、私が定点観測を続けていることから、祖父・朔太郎が撮影したのと同じものを撮影してみようというアイデアが生まれました。僕自身、朔太郎が亡くなってから生まれたので、彼がどんな人物だったのかは知りませんが、写真を通して足跡を辿るのは意義深さがありました。同じ場所を探して、同じ画角でファインダーをのぞきながら、彼は何を撮りたかったんだろう、とか、何を考えながら撮っていたんだろう、と思いを馳せましてね。ひとつ分かったのは、彼は寂しい写真を撮りたかったんだろうな、ということ。朔太郎自身、うつむいた寂しそうな表情だったり、人気のない道路だったり、何か物悲しさを感じました。

坂本 朔太郎さんは詩人として、写真からも何かを表現したかったのでしょうか。それにしても、会ったことのない先祖と同じ場所で、同じ空間を切り取るとは、究極の定点観測ですね。

新たな若者カルチャーを生んだ「ビックリハウス」

自分たちが楽しみ、笑いながら作った

坂本 一方で萩原さんは、一時代を築いた人気雑誌「ビックリハウス」を創刊した編集者としても知られています。

萩原 当時僕たちは雑誌なんてやったことなかったんですが、何かおもしろいことをやりたいということで、「天井桟敷」の仲間とパルコ出版に企画書を持って行ったんです。でも1回目も2回目も、その場で却下。それが3回目に持って行ったら、企画書も見ずに、いきなり「毎月予算を出すから、やれ」と(笑)。それをもって創刊したのが「ビックリハウス」です。といっても、僕らは素人なので、何から始めたらいいかわからないから、最初は人気雑誌の真似しながら作ったんですよ。ほら、創造は変容ですから(笑)。

その後、読者から投稿してもらったパロディネタの企画が大ウケし、投稿ハガキも段ボールで届くようになった。それが本当にくだらなくておもしろくて、僕らはもう、涙を流してゲラゲラ笑いながら作っていました。ある年、パルコで読者投稿を集めた原画展「日本パロディ展」を開催したら大盛況になり、自分たちが楽しんで作れば、世間も楽しませることができるんだと実感しましたね。

坂本 特にパルコは当時、若者の聖地でしたし、美大生の憧れでもありましたから。パルコは「日本グラフィック大賞展」もやっていましたよね。私も美大生時代、何度出展したことか。大きな作品を抱えて、公募会場に並びましたよ。今回改めて「ビックリハウス」のバックナンバーを読み直しましたが、今読んでもおもしろいんですよね。当時は今ほどタブーもなく自由(笑)。そういう時代を経たからこそ、今のサブカルチャーがあるわけで、「天井桟敷」や「ビックリハウス」の存在意義は大きいと思います。

萩原 そうだね、何でもありな時代でしたね。ただ一度だけ、書店に並ぶ直前に、さすがにこれはダメだと回収になったことあったな。あれが一番怒られた(笑)。

街を歩き、観察すれば
アートは見つかる

いつもの風景に変化を見つけて、
あなただけの日常を楽しもう

坂本 思い出が多すぎて話は尽きませんが、最後にお尋ねします。ここBAGは暮らしの中のアートをテーマに発信する展示を行っていますが、改めて日常のシーンを切り取る定点観測を行っている萩原先生から、アートを通して日々の暮らしを楽しむヒントを教えてください。

萩原 大事なのは日々観察すること。たとえば近所の公園にあるベンチも、気を留めなければ通り過ぎてしまうこともあると思います。だけど、これを「自分のベンチ」と決め、名前をつけ、毎日観察していれば、今日は老人が座っていたとか、今日は雪が降り積もっていたとか、実は日々違った姿を見せていることに気づくはずです。視点を変えることで、いつも同じに見える街も毎日変容している。そのことに気づくと、また暮らしの楽しみ方も増えるし、僕からしてみたら、それこそがアートです。

そのためには、街をたくさん歩いてみてほしいですね。歩くというのは、ただの移動手段だと思えばそれまでだけど、新しいことを発見する手段だと思うと、景色の見え方も変わってきます。一冊の本を読むように、街を読めば、きっとあなただけのテーマが見つかるはず、と伝えたいですね。

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