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Brillia Art Award

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No.19 
Brillia Art Award 2023作品・アーティスト紹介

Brillia Art Award 2023大賞
TITLE:
静寂の記憶
CONCEPT:
竹は「静寂」という独特な雰囲気のある素材です。本作品が考えた「静寂」はただ静かな環境ではなく、インナーピースという内的な面での落ち着いた静かさです。また、「動中の静」という言葉で静寂を表現することができます。例えば、竹林の中では風がそよぎ、竹の葉がさやさやと音を立てるだけでなく、竹がたたかれたり揺れたりする様子からも静寂を感じることができます。
本作品は竹のユニットで大きなオブジェクトを組み立てています。「線」は幾何学的な重複を通じて、豊かな表情や質感を示します。空間全体に繊細なパターンが広がります。この無限の反復は、内的な 静けさを喚起するのです。
また、竹ひごが光に照らされて透かされると、半透明になります。同時に、光も竹ひごの色に影響を受け、柔らかな体験を提供します。さらに、投射された影の変化も楽しむことができます。竹は軽い素材のため風で動かすことができます。前述したように静寂は「動中の静」です。竹自身の軽さにより、竹トンボなどの昔の玩具はデザインされました。風の流れを利用した動的デザインは、自然の光 景を想起させ、静寂な空間の体験を得られます。
Brillia Art Award 2023大賞
審査員より:選出の理由

今年で6回目になるBrillia Art Awardは、コロナ禍が明け、街にもようやく人通りが戻り、多くの方に作品を観ていただけるようになりました。

本作品は、集積された竹のユニットが多数組み合わさっていますが、「静寂の記憶」という作品タイトルの通り、騒々しくなく静かなに揺らいでいるように見えます。
様々な角度から作品を眺めると、周囲の景観を取り込みながらユニットによって区切られる景色は、竹の記憶と街の動きが重なり合って穏やかに広がりのある空間を映し出し、作品を通した視点の組み合わせで、喧騒が静寂に変わる体感を教えてくれました。

作品が単に鑑賞の対象というだけではなく、気づきを促してくれる「装置」のような機能も兼ねており、展示空間を内外までも活かした作品として高く評価し、大賞作品とさせていただきました。

ARTIST PROFILE

万 年/ WAN NIAN

竹を使用して静寂な空間を体験させ、人の心を落ち着かせるデザインを目指しています。竹の特性を活かし、線で構造された空間を提供することで、光や風の流れの変化によって、動的な静けさを感じることを探求しています。

2016年
中国地質大学 卒業
2021年
多摩美術大学大学院プロダクトデザイン専攻 卒業
2022年
東京藝術大学博士後期課程 デザイン専攻 在籍
2023年
「SICF24」 EXHIBITION部門 萬代基介賞

ARTIST VOICE

Q:応募のきっかけは?
作品を展示する機会を探していたところ、芸大の友人から教えてもらい、このアワードを知りました。ここでは屋内の展示とは異なり、半屋外の展示が行われ、光と影の変化によって室内と室外の空間が曖昧になります。一日の光の変化と静かな雰囲気を体験することができます。これはユニークな点だと思います。そのため、今回の展示に応募しました。

Q:どうやって企画を考えたのですか?
このディスプレイは人通りの多い場所にありますが、展示が暑い夏の日において人々に静寂の体験をもたらすことを意図しています。繊細な竹で作られた展示空間の特徴を踏まえて、白昼の日光や夜の灯光によって投射された影の変化も楽しむことができます。光の差し込む角度や時間、周囲の物体によって、さまざまな光が干渉しテクスチャーを作り出します。普段気に留めないような光を新たな捉え方から変え、感じることのできない感覚を引き出しています。このようなデザインによって、人々は瞬間を大切にし、静寂な美の体験を得られます。

Q:作品に込めた想いを教えてください。
竹は伝統的な竹工芸品にとって単なる生活道具だけでなく、長い歴史を経て伝承されてきた文化でもあります。竹材の加工技術は主に手芸産業で行われ、編む技術も人類の手のできる範囲に限られています。 このデザインは竹の特性と加工方法に着目し、竹に含まれる独特な表現方式を考察しました。そして、伝統竹工芸をユニット化して基本構造を抽出し、レーザー加工と3Dプリンタを使って継ぎ手(パーツ)をデザインすることにより、竹の新しい接続方式の可能性を探求しています。このような取り組みによって、竹の伝統的な工芸技術を現代に活かし、より創造的なデザインを実現することが期待されます。

Q:実際に作品を完成させた感想をお聞かせください。
このような大きな作品を製作するのは今回が初めてです。実際の設置中に経験不足から予想外の様々なトラブルが発生しました。作品の制作と設置に協力してくれた友人たち、そしてアワード運営の皆さんの様々なサポートに心から感謝しています。彼らの助けがあったからこそ、私は最後まで作品を最高の状態で展示することができました。

EVALUATION

小山 登美夫
(小山登美夫ギャラリー代表 / 日本現代美術商協会代表理事)

ワン・ニイエンさんの竹の作品。竹の工芸は日本の伝統文化としていま、世界中で注目されています。でも、もちろん中国、東南アジアでも竹は日常にある素材。その竹を使ったワンさんの静寂で軽やかな彫刻作品は、空間の中を浮遊して、光を包み込みこむ飛行船のようです。竹の特性をうまく使い、自然の力を身近に感じさせてくれる、その魅力がこの作品には溢れています。

野老 朝雄
(美術家)

素材としての竹が持つ可能性が大きく示されている。透明アクリルの連結材の設計も効果的だ。ともすると対立の立場にもなり得る民藝もしくは工芸と工業の概念も心地よく混じり合っている。平面の敷き詰めやタイリングをテッセレーション(tessellation)と呼び、空間の敷き詰めをハニカム(honeycomb)と呼ぶ。数学的なことはさておき、このような反復系の美を成立させるディテール設計も含めた制作上の[ど根性]は美しい。探究を続けていって欲しい。

坂本 浩章
(公益財団法人彫刻の森芸術文化財団 東京事業部 部長)

細い竹を丁寧に組んだ個体の一つ一つを考察すると、葉脈や、細胞のようにも見えてくる。同時に、大局的な見方として、住居のような空間を感じることができる。それらが幾何学的に集積された集合体を眺めることで、無限に広がる宙のように意識が引き込まれる感覚を覚えた。小さな個体が集まることで、植物や人となり、居住空間から宇宙へと広がってくる。この作品から見えてくる表現は、単なるアートピースでは収まらない、内と外をつなげる境界なのでは無いかと思えた。

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