今回の春田さんの作品は、山手線で集めてきた、音や声を文字という視覚的なものに起こして、それを漫画の吹き出しという丸にちょっとしたシッポを加えた日本的な──でももう世界的になった表現の中に入れて、見る人を容易に音や声の空間と時間に導いてくれる。意味や感情やメッセージといった異なる階層の音に見る人が何かを思ってその前を通り過ぎる。その瞬間を起こすのが素晴らしいと思います。
山手線を一周しながら集めた音と言葉を文字で紡いだ作品です。コンセプトが魅力的だったので、完成を楽しみにしていました。四方から見えるガラスケースを意識して空間が構成されており、シンプルながらも反射を取り込むことで、興味深い展示になっていたと思います。
今年は東京でデフリンピック(耳が聞こえないアスリートのためのオリンピック)が開催されることもあり、こうした文字情報による展示は、聴覚文化に慣れ親しんだ私たちに新たな視点をもたらしてくれるのではないでしょうか。
1つの現代アートの鑑賞時間は8秒とも言われるが、春田の言葉の彫刻には人の足を止め想像のスイッチを入れる構造がある。吹き出しの言葉は手裏剣か無回転で落ちるナックルの様に向かってくる。この作品の前でニヤついている人と友達になりたい。
作者は、その場所、その時の瞬間、そこに存在する空気を絵画や造形で作品化しており、今回は山手線に乗ってさまざまな声を拾い、言葉を活字に起こして構成することで、その場に居たような疑似体験を覚えました。それは、一文字一文字手書きで描かれた文字だからこそ、人の息遣いを感じて臨場感を演出できていると思います。また、文字のレイアウトや照明の位置により、さらに奥行きや空間の広がりも表現されていることで、作品越しに歩いている人と重ね合わせて眺めると漫画の吹き出しのように声が聞こえてくるようです。