Brillia Art
Brillia Art Award

ARCHIVEこれまでの作品

No.25 
Brillia Art Award Cube 2025作品・アーティスト紹介

TITLE:
石油のメモリー・ガーデン
CONCEPT:
墓はかつて生きた者を大切にし、想い、今を見守ってもらう心の拠り所であり、未来への祈りを捧げる役割をもっています。そして墓地は、今を生きる者の生活空間と共にあります。

この作品は、太古の昔の生物に想いを馳せるものです。6つの墓石の素材はアクリル糸で、その原料は石油であり、石油の原料は数億年も前に生きた生物の死骸であるという説があります。まちづくりや建造物、そして日々の生活で現代人に欠かすことのできない石油の元となってくれている古生物。そんな者たちにふと想いを寄せる空間を、足早に多くの人が行き交い、進化し続けるまち、八重洲に作りました。

石油は地球の奥深くから掘削されますが、この作品では墓石が置かれた台と墓石で、地質年代的な地層を表現しています。さらにはこの東京建物八重洲ビルをはじめ周囲の高層ビル群のファサードも地層的で、1階に設置された作品の地層と地続きで未来へ向かっているかのようです。

ARTIST PROFILE

力石 咲 / SAKI CHIKARAISHI
<略歴>
1982年
埼玉県生まれ
2004年
多摩美術大学美術学部情報デザイン学科卒業
1次元の糸を原子、それを絡めながら3次元の物体を生成する編み物を結晶化することと考え、物事を物理的視点から捉えたり、成り立ち・素性に関心を寄せながら制作を行う。
<活動歴>
2020年-2022年 「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」出展(奈良県吉野町/奈良)
2021年
「AIR 1/2F」出展(BnA Alter Museum/京都)
2022年
吉祥寺ダンスLAB. vol.4 水越朋×力石咲 舞台「エコトーン ECHO-TONE」(吉祥寺シアター/東京)
2022年
「道後オンセナート2022」出展(道後温泉地区/愛媛)
2022年
開館25周年記念 全館コレクション展「これらの時間についての夢」出展(宇都宮美術館/栃木)
2023年
「アーティスト・イン・ミュージアム AiM Vol.13 力石咲」(岐阜県美術館/岐阜)
2023年
力石咲 滞在制作・展示 「ファイバー! サバイバー! ここにある術」(東京都渋谷公園通りギャラリー/東京)
2024年
「PinS プロジェクト」転校生(富岡町/福島)ほか
<受賞歴>
2003年
「第7回文化庁メディア芸術祭」アート部門 推薦作品
2004年
「第9回学生CGコンテスト」インタラクティブ部門 最優秀賞
2007年
「世紀のダヴィンチを探せ!国際アートトリエンナーレ」入賞
2007年
「神戸ビエンナーレ 2007 ロボットメディアアートコンペティション」入賞
2014年
「YouFab Global Creative Awards 2014」入選
2014年
「LUMINE meets ART AWARD 2014」グランプリ

ARTIST VOICE

Q:応募のきっかけは?
20年ほど糸や編むという技法で作品制作を続けるうちに、そして様々な経験をしてきた年頃的にも、近年は物事の素や本質に目がいくようになっています。そういう思考から生まれた《石油の墓石》という作品がまずあって、単体ではなく墓地のようなインスタレーション形式の作品を展示したいと思っていました。
このコンペを知った時、その作品構想と色々な意味でバランスが良いと思い応募しました。
そのバランスとは、東京建物さんというまちづくりに関わる企業のアワード、人の生活空間にある墓地と対になる人が行き交う都会という部分、石油まみれである都会、古生物という過去に対して未来を感じられる現在進行形の都会という部分です。高層ビルの1階の一角ということや、こじんまりとしたスペースも、墓地にはぴったりだと思いました。

Q:どうやって企画を考えたのですか?
本来そういうものではないとはいえ、墓地というと明るいイメージや良いイメージはないかと思います。そこで、墓地すぎる作品にならないようにということは気に留めていました。
そして編み物や糸ということが前面に出過ぎないよう、あくまで石油の一つとしてアクリル糸があるということに気をつけたつもりです。
編む行為には時に祈りや想いを込めることがあったり、技法が死者を弔う石積みのようでもあるので、墓と親和性があると思っています。そんな思考から始まって、八重洲のことがいつも頭の片隅にある中で、編まれたものが地層のように見えたり高層ビルのようにも見えたり、最終的にはこのインスタレーションは再開発の続く八重洲の縮図のようではないか、というふうに思考が広がっていきました。それが楽しくて制作も捗ったのですが、方向性に迷うこともあったので、そんな時は度々現場を見に行っていました。
またビジネスマンが多く皆足早に行き交う場所なので、じっくり考えさせる展示よりはパッと見てわかったり、インパクトの大きさの方が大事ではないか、ということを考えながら構想しました。

Q:作品に込めた想いを教えてください。
物事の違う見え方を提示したつもりです。八重洲とリンクする部分、対比する部分などまちがあっての作品なので、場所に馴染んでいくといいなと思います。
制作が本当に楽しくエネルギーも放出したので、感じてもらえたら嬉しいです。

Q:実際に作品を完成させた感想をお聞かせください。
数ヶ月に渡り狭い倉庫でじっくり作ってきたので、やっと世に出すことができて嬉しいです。遠目からでも色々な角度から見ることができ、24時間の中で時間帯によって見え方も変わるので、とても贅沢な空間だと思います。お墓の置かれている台を作るのがすごく大変だったのですが、素材の勉強にもなりましたし、ドロドロした石油感も出ていて気に入っています。
初期の企画ではお墓だけの空間だったのですが、ここまで思考を広げてくださった審査員の皆様にも感謝です。

EVALUATION

小山 登美夫
(小山登美夫ギャラリー株式会社 代表取締役/日本現代美術商協会副代表理事)

力石さんの今度の作品は、お墓!と聞いて驚いていたのですが、出来てみると明るい幸福感にみちたメモリアルな碑のようなものになっていて、何匹か、何本かわからない太古の生物や植物が元気に活動したり、生い茂っていた頃に思いをはせる場所となって、時期も夏でピッタリだったのではないかと思います。

橋本 和幸
(東京藝術大学 美術学部長・美術研究科長 デザイン科 教授 兼 芸術未来研究場 瀬戸内海分校プロジェクトリーダー)

石油の源が数億年前の生物にあるという壮大な時間軸を、アクリル糸で編まれた“墓石”として現代都市に投影した作品。編みの繊細さと都市の雄々しさが交差し、未来と過去を重ねる祈りを想起させます。楽しみながら編み進めた作者の気配が糸の軽やかさに宿り、作品と台の大きさや高さのバランス、配置が展示空間に心地よく調和している点も印象的でした。

遠山 正道
(株式会社スマイルズ 代表/株式会社 The Chain Museum 代表取締役)

丁度今、Green dayのBasket Caseを聴きながら書いている。能天気に明るいハッピーな疾走感ながら歌詞は裏腹に精神的な混乱や不安を書いている。Basket Caseとは第一次大戦で手足を失った戦士をバスケットに入れて運んだことからきていると言う。力石さんのこの作品の柔らかい優しく包み込まれ現れるカワイさと、そこに潜む太古からの沈澱した時間と累々の死骸、墓というタブー。両儀が広ければ、我々が飛び込むタイミングも掴みやすい。息を殺して、今、微笑む!

坂本 浩章
(公益財団法人彫刻の森芸術文化財団 東京事業部 部長)

力石さんは10年以上前から、編むという行為で人との繋がりや環境との関係性を作り出して、サイトスペシフィックな作品を生み出してきていましたが、同時に素材の毛糸に向き合い自然や社会情勢へ意識をより高めており、本作品は自身が向き合ってきた毛糸という素材に対してのリスペクトを感じさせられた。作品を通して、地球環境から生まれた化石素材の上で生活する者として、改めて環境への配慮を熟視するきっかけになった。

PAGE TOP