
幾千もの星々が描く光跡、夜の空港を発着する飛行機、港を行き交う船、高速道路の車のライト、、
それらが描く光跡は時間の経過と共に美しいラインを描きます。
今回の作品は1点ずつの独立した作品ですが、そのような様々な光跡のバリエーションを表現する為に3点を展示しました。
それぞれの作品、そして3点合わせてご覧いただき皆様が体験された光跡の記憶を辿っていただけると幸いです。

1979年 武蔵野美術大学 造形学部 大学院卒 在学中にストックホルムと京都の工芸学校を受講し大きな影響を受ける。
企業入社後、企画部門にて主に欧米向けデザインを担当。海外訪問を通じて、数多くのアートに触れる機会を持った。
そのようなクラフト、デザイン、アートとの出会いや経験が創作の礎になっている。 退職後、武蔵野美術大学客員教授を経て、 現在はアート制作を中心に活動中。


美しい空を見上げたり、光る星の瞬きを見つけたり、都会のどこかに何かしらの光を発見した時に、私たち心はときめきます。
人間に限らず生き物は光にとても敏感に出来ているのです。そうした私たちの本能とも言うべき光への感動を梅崎さんは絵画として描き、私たちに届けて下さいました。
空港で飛行機が、港で船が、高速道路で車が、それぞれ放つ光は、暮れなずむ空に滲み美しい光跡となって私たちの心を揺さぶります。そうした感動を見事に表現しています。梅崎さんが描く光は、私たちの心に希望をもたらしてくれます。
左官職人が使う櫛引という古くから伝わる技法をヒントにして描かれたそうです。

空を表現した作品は数多くありますが、梅崎さんの作品は、櫛引からヒントを得た独特の表現が印象的でした。遠くから見ると空のグラデーションとして見えますが、近くで観ると、無数の独立したカラフルな線が重なり合っているため、彩度の高い画面になっています。
「光跡」というタイトル通り、それらの線は様々な速度や軌跡を感じさせ、詩的な表現になっています。空だけでも十分に成立しているように見え、下の陸地部分はなくてもよいのではないか、と想像が広がるのも、この線の色の豊かさによるものだと思います。
また、全体図と部分拡大図の両方を応募資料に添えてプレゼンしていた点も巧みだと感じました。作品の魅せたい部分が明確だからこそ、この提示方法が活きたのだと思います。
様々なイメージや時間を内包した、豊かで詩的な空がとても素敵です。

まるで金糸や銀糸を用いた織物のようなマチエールは、佐官の技法である「櫛引」を独自にアレンジしているそうです。
角度によってキラキラと光る様子は、光跡だけでなく、マジックアワーやグリーンフラッシュと呼ばれるような儚く美しい情景をも想起させます。
朝日が昇る頃、夕陽が沈む頃、また夕陽が落ちた後、自身が見た記憶や心象風景と重なりあって思い出の中を旅するような作品です。