
夕暮れ時の空を舞台とした4枚組の作品です。
それぞれの作品は独立した作品でありながら、4枚をこの配置に並べることで
新たに紡がれる物語を表現しています。
ふと開いた扉の向こうから始まる、女性と猫たちの心温まる出会いを描いています。
第1章:「未来への旅立ち」(左上)
未来へと飛んでいく空に舞う風船は、新しい出会いへの予感を表現しています。
風に乗って運ばれる小さな希望が、物語の始まりを告げています。
第2章:「出会いの予感」(右上)
はしごの最上部で左を見ながら仔む猫。
その視線の先には未来の出会いを暗示する風船が飛んできました。
高い場所から見つめる瞳には、何かへの期待が宿っています。
第3章:「想いを馳せて」(右下)
はしごを見上げる猫。上にいる仲間への想いと、
これから始まる新しい関係への期待を、空を見上げる姿で
静かに未来を示唆しています。
第4章:「新しい出会い」(左下)
風船が放たれたのは彼女からでした。
風船に導かれて、彼女と2匹の猫との出会いをもたらします。

1970年兵庫県生まれ。
Photoshopを通して現実と非現実の境界を描く作品を中心に制作し、記憶や感情に響く作品を追求している。
2015年、東日本大震災の被災写真修復ボランティアに参加。
2022年・2023年に「World Photographic Cup」銀メダルを受賞。
2023年より国際フォトアワード審査員を務める。


美しい空と風船と女性と二匹の猫が織りなす物語。
小さな希望が放たれ、それを見つけ掴もうとする猫。
掴むには階段を登るという冒険や努力が必要です。
結果はきっと、希望を求める生き方への憧れや、幸せな気持ちが心を満たすことでしょう。
美しい画面の中には、この世界に生きる私たちの心模様が描かれています。

たくさんの応募作品の中で、このようにほっとする世界観を持った作品は意外と少なく、かえって目を引きました。
紫色のドラマチックな夕暮れを背景に、影絵のように物語が表現されています。両者のコントラストが互いを引き立て合うその光景には、どこかに置き忘れた記憶のような懐かしさがありました。四枚に分かれた構成は展開を感じさせる一方で、細部を語りすぎないことで観る人それぞれに解釈の余白を残しています。
写真は単なる記録ではなく、思い出を閉じ込め、すくい上げる力を持つ表現であることを改めて感じさせられました。作者が以前、東日本大震災の写真修復ボランティアをしていたと知ると、作品に込められた優しい想いがより深く伝わってくるようです。
赤い風船は希望でもあり、それぞれの人の大切な忘れ物でもあるのでしょうか。私もそれを追いかけてみたくなります。作品の中では、その過程で仲間に出会うのも温かい気持ちになりますね。
時間の中に埋もれた大切な記憶をそっと呼び起こしてくれる、そんな作品でした。

作品の前に立った時、子供の頃に見た絵本や、好きだった本の挿絵を見ているようなノスタルジックな気持ちになり、自分の中の「いつかの自分」と対峙するような感覚が生まれました。作者は女性と猫たちの心温まる出会いを描いたそうですが、夕暮れを舞台に風船と女性の躍動感(左)と猫のいる風景の静けさ(右)を共存させ、リアルとフィクションで構成された写真だからこそ、鑑賞者がそれぞれの人生や思いと重ね合せて作者の意図を超えた物語が生まれていくように感じました。
2025年の本アワードでは、偶然にも複数の構成からなる2作品が選ばれました。
暮らしをテーマにしたアワードを通じて、情景の移り変わりや人生の巡りに思いを馳せ、未来を感じさせるような連作が選ばれたことに、其処は彼とない希望を感じます。