立石の歴史や文化、人と人とのつながりといった、
この街らしさを未来へ受け継ぎながら、
新しいまちづくりを進めていく――。
京成立石駅北口地区で進む再開発では、
その思いを形にする第一歩として、
工事期間中の仮囲いを活用した
アートプロジェクトを実施しました。
「温故知新」をテーマに、
立石の「歴史」「過去」「現在」「未来」を描いた
4つのオリジナルアートを展開し、
そのうち「未来」をテーマにした作品は地域住民とともに完成。
アートを通じて立石らしさを紡ぎ、
地域とともに歩むまちづくりを目指しています。
その思いを、東京建物とヘラルボニーの皆さんに伺いました。

―今回のプロジェクトは、どのような思いからスタートしたのでしょうか。
樋本(東京建物) 立石駅北口地区では、2030年の竣工を目指して再開発事業が進行中です。昨年(2025年)から工事が始まりましたが、完成までには長い期間がかかります。その間、仮囲いによって駅前の風景が遮られてしまうことが課題でした。
毎日ここを通る地域の皆さまや立石を訪れる方々に、少しでも楽しい気持ちになってもらいたい。「再開発が楽しみだな」と感じたり、新しい発見ができたりする場所をつくれたらと考えたのが、このプロジェクトの始まりです。
―ヘラルボニーとの協業は、どのように実現したのでしょうか。
牧口(東京建物) Brilliaでは「自分らしい豊かさ」を大切にしており、その一環としてアートを積極的に取り入れています。ヘラルボニーさんは、障害のある作家のアートをさまざまな形で社会へ届ける取り組みをされている会社で、これまでも仮囲いアートで何度かご一緒していますが、今回は立石ならではのオリジナル作品をつくりたいと考え、お声がけしました。
長い歴史や文化、この街で暮らしてきた方々の思い出を大切にしながら、地域の皆さんと一緒に作品をつくり上げることで、立石らしさを感じられるアートになればと思いました。
―「立石らしさ」を、どのようにアートで表現したのでしょうか。
樋本 今回のプロジェクトでは、「温故知新」をテーマに、立石を「歴史」「過去」「現在」「未来」という時間の流れで表現しました。それぞれが独立した作品でありながら、全体で一つのストーリーとして立石の魅力を伝えています。再開発によって街は変わっていきますが、その中でも受け継がれていく立石の魅力を感じていただけたらと思っています。
牧口 4つの作品それぞれに、立石を象徴する風景やモチーフを取り入れました。「歴史」には地名の由来にもなっている「立石様」、「過去」には横丁や路地、おもちゃなど昔ながらの風景、「現在」には賑わう商店街、「未来」には再開発後の街並みを描いています。
仮囲いアートでも立石ならではの魅力や個性を表現することで、地域の皆さまに改めて「立石らしさ」を感じていただき、街への愛着や誇りにつながればと考えています。
―そのコンセプトを、どのように作品へ落とし込んだのでしょうか。
安藤(ヘラルボニー) 私も立石といえば、昔ながらの商店街や横丁、人の生活が感じられる街という印象を持っています。その魅力が伝わるよう、立石の風景やモチーフを線画で描き起こし、アートと組み合わせるデザインをご提案しました。
岡(ヘラルボニー) 今回の仮囲いアートには、ヘラルボニー契約作家のfuco:さんの作品を取り入れています。fuco:さんは、マル・サンカク・シカクをモチーフに描き続けている作家で、色彩や形が幾重にも重なり合う、華やかで賑やかな表現が特徴です。マルを重ねるその表現が、多様な人々が集まり、一つの街をつくっていく様子とも重なるように感じ、このプロジェクトにふさわしい作品だと考えました。
樋本 立石は、人と人との距離が近く、活気があふれる、温かく明るい街です。fuco:さんの色彩豊かな作品には、エネルギーや親しみやすさが感じられ、立石の雰囲気にぴったりだと感じました。
牧口 fuco:さんの作品タイトルも印象的でしたね。特に「未来」のアートに採用した「シアワセピンク」は、再開発によって未来へつなげるイメージにぴったりだと思いました。
―今回、地域の皆さんと一緒にアートを完成させるワークショップを実施されました。その狙いを教えてください。
牧口 再開発は未来へ向けたプロジェクトです。だからこそ、これからこの街で育っていく子どもたちにも参加してもらい、自分たちの街への愛着につながればという思いがありました。そこで、地元の幼稚園にも足を運び、ワークショップへの参加を呼びかけました。
岡 誰でも気軽に参加できるように、fuco:さんの描いた「マル」の一部をステッカーにし、作品に直接貼ってもらう仕組みにしました。4つの作品のうち「未来」をテーマにした作品を、地域の皆さんと一緒に完成させる形です。
樋本 車椅子をご利用の方をはじめ多様な方に参加していただけるように、作品の一部は台の上に設置するなど、会場づくりにも工夫をしました。年齢や障害の有無にかかわらず、できるだけ多くの方に参加していただき、「地域のみんなでつくった作品」と感じてもらえる場にしたいと考えていました。
ワークショップは一日限りの開催。終日、多くの参加者が訪れた
一人15カ所の「マル」ステッカーを貼って作品づくりに参加
作家のfuco:さんも来場。
仮囲いアートに採用された作品「シアワセピンク」を用いたワンピース姿
小さな子どもたちも夢中でステッカー貼りに参加
―ワークショップ当日は、どのような様子でしたか。
安藤 告知を見て来てくださった方だけでなく、「何をやっているんですか?」と興味を持って立ち寄ってくださる方もたくさんいました。fuco:さんご本人も会場にいらっしゃって、一緒に作品づくりを楽しんでくださいました。
牧口 参加者の皆さんは、手元のステッカーと作品を見比べながら、「どこだろう?」と夢中で探していました。ステッカーを貼る「マル」は約2,000カ所用意したのですが、だんだん埋まっていくと難易度も上がり、ゲーム感覚で楽しんでいただけたみたいです。小さなお子さんからは、「もっとやりたい!」「もう一枚ちょうだい!」といううれしい声も。
岡 ステッカー自体も60種類あるので、色と形が合う場所を探すのが意外と難しくて、探しながら参加者同士の自然な会話が生まれるんです。「私、お店をやっているから今度来てね」と話が広がったり。立石らしい、人と人との距離の近さを改めて感じました。
樋本 印象的だったのは、お母さんとお子さんが「どこに貼ったか覚えておいて、お父さんにも教えようね」と話していたことですね。自分が参加した作品が街の風景の一部になるという体験は、とても特別なものだったと思います。
―完成した作品をご覧になって、いかがでしたか。
樋本 ワークショップのときは平置きだった作品が、実際に仮囲いへ設置されると想像以上の迫力でした。地域の皆さまと一緒に完成させた作品が街の風景の一部になったことを実感しました。今回の取り組みが、地域の皆さまにとって、アートや街をより身近に感じるきっかけになっていたらうれしいです。
安藤 初めての取り組みだったので、ワークショップを実施する前は、本当に作品としてまとまるか不安もあったんです。でも、皆さんがルールを守りながら丁寧に貼ってくださって、「みんなで一つの作品をつくろう」という気持ちが伝わってきました。実際に設置された作品を見たときは、本当にうれしかったですね。
―最後に、このプロジェクトへの思いをお聞かせください。
牧口 今回の仮囲いは、私たちにとって再開発のスタートラインです。立石の歴史や文化、人と人との距離の近さといった、この街らしさをこれからのまちづくりにも生かしていきたいと考えています。仮囲いアートも、その思いをつなぐ取り組みの一つです。今後は、完成後の共用部での活用も含め、地域の皆さまに長く親しんでいただける形を考えていきたいと思っています。
岡 作品を通して、地域の皆さんと一緒に街をつくる機会をいただけて、とてもありがたく思っています。今回のプロジェクトが、立石の新しい風景として、そして地域の皆さんの思い出として残っていけばうれしいですね。
ワークショップ前。薄く印刷されたさまざまなマル
ワークショップ後。ステッカーが重なり、マルが鮮やかに
初めて仮囲いのある場所を訪れたとき、新しい街が生まれる場所である一方、思い出の詰まった街が姿を変えていく場所でもあることを実感しました。だからこそ、「歴史」「過去」「現在」「未来」を描いた鮮やかなアートから、そこに暮らしてきた方々のさまざまな思いを大切にしようとする、作り手の気持ちを感じました。
ワークショップでは、子どもから大人まで、皆さんが童心に帰って楽しんでいる姿が印象的でした。義務でも支援でもなく、「楽しむ」ことが自然に人をつないでいく。その力を改めて感じました。
街は、建物や道路だけでできるものではありません。さまざまな人の思いや、隣の人に向けるまなざしを、こぼさずに重ねながら、つくられていくものだと思います。それは、fuco:がシンプルなモチーフを一つずつ、飽きることなく真剣に描き続ける姿にも重なりました。これからfuco:のアートが時間をかけて街の人々と交わり、暮らしの中に溶け込んでいく。そんなふうにご覧いただけたらうれしいです。
